Blood – Little Simz feat. Wretch 32 & Cashh (2025)

家族は濁水の中を進む私の鎧

イギリスのラッパー、ソングライター、女優としても活躍するLittle Simz 6枚目のアルバム『Lotus』より『Blood』

Hello?
Hello?
Twin, wagwan?
Where are you?

And how’s Mum?
Wait, hold on
Why don’t you phone Mum?
Long time I ain’t heard from you
Couldn’t get one word from you
Duh, that’s why I just phoned, sorry
I spoke to Mum on her earth strong
What? Eight months ago?
Don’t try that
It’s me every day that she hears from
Arthritis in her right leg
Am I right in saying you see no wrongs?
It’s like the woman won’t relax
I already told her quit the nurse job
I said I’ll put her on a wage

What more can I say?
If she just wants to work, what?
Well, you can’t replace her son with money
Yo, are you even in the country?
Of course I’m never in the country
And it’s called a “world tour” funnily
And all you hit me for is money

Mm, well, some of us ain’t got it like that
And that’s not true
I call to check on you
And you say you’ll hit me right back
Then you’re gone for months
But it’s nice that you finally called for once
“For once”?
Yes, “for once”
Stop acting surprised
You’re saying “for once”?
You’re saying “for once”?

When do you ever call me?
Alright

もしもし?
もしもし?
妹よ、元気かい?
どこにいるんだ?
ママはどう?
ちょっと待って
なんでママに電話しないの?
ずっと連絡ないじゃん
一言ももらってない
だから今かけたんだ、ごめん
ママの誕生日に話したよ

…8ヶ月前?
そんな言い訳やめて
毎日連絡してるのは私の方よ
右足の関節炎もあるし
あんた何も悪いと思ってないわけ?
お袋はずっと休まない
看護の仕事辞めてくれって何度も言ったのに
家に金も入れるって言ったじゃん

これ以上なんて言えばいいんだ?
お袋は働くことを望んでるんだ

息子はお金じゃ代わりにならない
てか、そもそもあんた国内にいるの?
当たり前だけど、いつも国外だよ
「ワールドツアー」ってやつさ
で、お前は金の話ばかり
…まあ、みんながみんなそんな余裕あるわけじゃない
違う
私はあんたの様子が心配で電話したの
でも「すぐかけ直す」って言ったきり
数ヶ月いなくなる
でも今回はやっと電話くれてよかった
「やっと」?
そう、「やっと」
びっくりしたふりやめてよ
「やっと」って言ったか?
「やっと」って言ったか?
あんたが私に電話することなんてある?
わかったよ

Distance in the dark
I feel we’ve grown apart
If you want greener grass
You have to water where you are

暗闇の中の距離
私たちは心が離れてしまった
もっと良い場所を望むなら
今いる場所に水をやらなきゃ

wagwan:(ジャマイカ・クレオール語(パトワ語)のスラング)どうした?、元気?、調子はどう?
I ain’t heard:I haven’t heardの口語体
duh:(スラング)当たり前、そんなの分かってるよ
earth strong:(ジャマイカのレゲエ文化で)誕生日
wage:賃金、給料
for once:今回だけは、一度くらいは
grew apart:疎遠になる、心が離れる
greener grass:よりよく見えるもの(The grass is always greener on the other side. 日本語のことわざにもある「隣の芝はいつも青い。」より)

Truth is I just been burning bridges
Finding women
Hurting siblings
Left me tired of winning
Found some people, but they weren’t my niggas

What? Even Jay?
That’s another day
I’ve been in the club where I drink the liquor
Working through the night, but I’m working with it
Something ‘bout our ends I’m missing
‘Cause the mountain top, it ain’t so fulfilling

Mm, nah, I hear you
And I been worried about how you’ve been coping with it
There’s one of you
But there’s two of us
And I’ve been in need of my brother’s love
But that life ain’t sustainable, so don’t lose yourself
And how’s your health?
I have my days where I drift away
And see Granny’s face, and wanna trade places
Thats normal, ain’t it?

Not really
If she heard that, she’ll turn in her grave
That woman loved you
No one above you
I low-key felt you were the favourite
Rah, that was mad

That was crazy
Oi, that woman, una
God rest her soul

正直、いろんなことを台無しにしてきてる
女を引っ掛けて
兄弟たちを傷つけて
勝ち続けることに疲れた
何人か仲間はできたけど、本当のダチじゃなかった

ジェイでさえ?
それはまた別の話
クラブで酒をあおって
夜通し働いてるけど…
地元の何かが恋しい
山の頂上ってのは、案外虚しいんだよ

…わかる
どうやって対処してるのか心配だった
あんたは一人
でも私たちは二人
私には兄の愛が必要だった
でもそんな生活は長続きしない、だから自分を見失わないで
健康はどう?
流されてしまう日がある
ばあちゃんの顔が浮かんで、立場を代われたらって思う
それって普通だよな?

…あんまり
ばあちゃんが聞いたら墓の中でひっくり返るよ
あの人、あんたのことすごく愛してた
誰よりもね
あんた(お前)が一番のお気に入りだった気がする(二人同時に)
…マジか
マジだよ
まったくあの女ってやつは
彼女の魂に安らぎを

Distance in the dark
I feel we’ve grown apart
If you want greener grass
You have to water where you are

暗闇の中の距離
私たちは心が離れてしまった
もっと良い場所を望むなら
今いる場所に水をやらなきゃ

burn bridges:縁を切る、関係を壊す、後戻りできない状況を作る(自分が通ってきた橋を燃やしてしまうと、もう後戻りできないというイメージより)
sibling:兄弟(性別に関係なく兄弟姉妹全体を指す言葉)
nigga:〈米黒人俗〉友達、友人、ダチ
our end:自分たちの方、自分たち側
fulfilling:充実した
I hear you:言いたいことは分かる
cope+ing (coping) with:〜に対処する、立ち向かう
sustainable :〔長期間 · にわたって〕続けられる、続けていける、維持、持続できる、持ちこたえられる、耐え得る
low-key:控えめに、なんとなく

On a real, twin
I really don’t know much about your lifestyle
Or what comes with it
But I know you
So it’s weird to feel like I can’t phone you
I go to work and they play your songs
And my co-workers ain’t got no clue that you’re my family
And your sister I’m proud to be
So when I hear you talk on what you’re going through
It breaks my heart into two pieces
It’s like life’s got two meanings
Three series and four seasons
I hope you find your reasons
I found mine and found pure weakness

Temptation like the group
And I’m so high, I’m on the moon
But then I’m so low, I’m on a stoop

Bro, please come home soon
But I’m at home when in the booth
But I can’t cuddle on this tune
Drums don’t know me like you
Keys just lock me in the room

Oh my God, you’re such a artist
What does that mean?
In laymen’s terms, nothing in between
We’re the same but different
And we came up different
I had to take Dad’s whippings
Then had to shake up prison

Yeah, well, I had to hold mum crying
So all that pain I ain’t buying
Yo, just step outside yourself for one sec
You ain’t the only one that’s got shit suppressed
I ain’t the only one that’s got shit suppressed?
You ain’t the only one that’s got an intellect
And I only phoned you because
I only phoned you ‘cause

What?
I only phoned you ‘cause I need a friend

正直言うとね、兄貴
あんたの生活について
私はほとんど知らない
でもあんたのことは知ってる
それなのに、電話すらできないなんて変だよ
職場ではあんたの曲が流れてる
同僚たちは、あんたが私の家族だなんてまったく知らない
私はあんたの妹で誇りに思ってる
だから、あんたが苦しんでる話を聞くと
心が真っ二つに割れるように痛むんだ
人生って、意味が二重にあるみたい
ドラマ3本に、4つの季節
お前が理由を見つけられますように
俺は見つけたけど、それは脆さでもあった
誘惑って、まるであの”Temptations”みたいだ
月にいるようなハイな気分の時もあれば
玄関前の小さな階段でうずくまっている時もある

兄貴、早く帰ってきて
でも俺の家はこのブースなんだ
でも曲じゃハグできない
ドラムは俺を知らない、お前みたいには
鍵盤は俺を部屋に閉じ込めるだけ

…ほんと芸術家って感じだね
それ、どういう意味?
つまり、両極端ってことだよね
似てるけど違う
育った環境も違う
俺は親父の暴力に耐えた
ムショも揺さぶった

ええ、でも、私は泣くママを支えた
だからあんたの痛みってやつすべてに共感するわけじゃない
一瞬でも、自分の外に出て見てよ
あんただけが辛いわけじゃない
俺だけが辛いわけじゃない?
お前
けが知的なわけでもない
…俺が電話したのは

…俺が電話したのは
何?
…俺が電話したのは
友達が必要だったから

My family is my armour
Through the muddiest water, water, water, water
When you clean off sins and karma
You get the muddiest water, water, water, water

家族は私の鎧
一番濁った水の中をを通り抜けて
罪と因果を洗い流した時
その水は一番濁っている

Distance in the dark
I feel we’ve grown apart
If you want greener grass
You have to water where you are

暗闇の中の距離
私たちは心が離れてしまった
もっと良い場所を望むなら
今いる場所に水をやらなきゃ

https://genius.com/Little-simz-blood-lyrics

ain’t got no clue:全く見当がつかない、さっぱりわからない
go through:経験する、耐え抜く
series:(ラジオ・テレビ・映画などの)連続番組、シリーズもの
Top Boy』というNetflixsのドラマで、Simzがシングルマザーの介護士を演じたことを指しているのかもしれません。ちなみにOSTはSimzのファンだというBrian Enoによるもの。
Temptations:通常の意味「誘惑」と、アメリカのソウル・コーラス・グループ「The Temptations」を掛けている
stoop:玄関前の小さなポーチ、階段
cuddle:抱きしめる
in layman’s terms:平たく[かみ砕いて・素人でも分かる言葉で]言えば
nothing in between:両極端で中間がない、グレーゾーンが存在しない
whipping:鞭打ち、相手を負かす行為
buy:(スラング)信じる、納得する
amour:装甲、防護具

イタリック体がWretch 32のVerse、引用マーク部分がCashhの歌唱になります。

次第に距離を置くようになった兄と妹の喧嘩をラッパーのWretch 32との掛け合いで演じるこの曲、家族の難しい距離感が繊細で、おばあちゃんの話(お互い相手のほうが愛されていると思い込んでいた)の部分には涙腺が緩んでしまいます。

Simzは、ナイジェリア人の母トーラと3人の兄姉に育てられ、北ロンドンで育った移民2世代。里子を次々と迎えたという母親への愛情が歌詞に感じられます。The Guardianのインタビューでは次のように語っています。「本当に素晴らしい経験でした。家族への尊敬と感謝の気持ちが新たに芽生え、誰もが愛情深い支えを得られるわけではないことを知りました。私は一日たりとも愛のない日はありませんでした。」

Wretch 32は移民3世代で、彼の祖父母はジャマイカからイギリスに渡り、北ロンドンに定住しました。「おばあちゃんと代わってあげたい」は実の家族の苦労を思ってのリリックなのかもしれません。そして芸術家めいた抽象的な表現をする彼に、Simz演じる妹が真っ直ぐな表現をするよう進言したことで、最後に吐露する本音がグッときます。

途中に入るCashhの歌唱はそんな二人を天上から見守る存在のようです。(彼もまたジャマイカ生まれの移民で、ロンドンから国外追放された経験があるラッパーです。)

アルバムのタイトルは「泥水で育つ数少ない花」の「睡蓮」。濁水の中を進む自分を支えてくれる家族への憂慮と畏敬が滲む歌詞は、何度も読み返したくなります。

Wretch 32の2025年のアルバム『HOME?』にもSimzが参加しているのでこちらも聴くとより理解が深まるかもしれません。





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